● 婚姻について
     (*婚姻 ⇒ 法律上の手続をとって結婚すること。**結婚のことですが、法律では婚姻(こんいん)という用語を使っていますので、ここでも、「婚姻」の方を使います。)

     ○婚姻の成立

     ○婚姻の効果 
               T 夫婦の氏 U同居・協力・扶助義務 
               V 成年擬制  W 夫婦の契約取消権 X その他

     ○夫婦の財産
               T 財産の帰属  U 婚姻費用分担義務
               V 日常家事債務の連帯責任  W 夫婦の財産契約


 ○婚姻の成立

  婚姻(法律上の結婚)の成立要件は、
 @実質的な婚姻意思があること。
 A婚姻障害事由に該当しないこと。
 B形式的な婚姻の届出
 このすべての要件をクリアしていることが必要です。

 一つずつ見ていきますと・・・。

 @実質的な婚姻意思があること。
 婚姻意思のない婚姻は、無効です(民法742条)。
意思のない婚姻が無効になるのは当然のことですが、万が一、届出が受理されると、戸籍に記載されるので、戸籍の訂正をするには、「婚姻の無効確認」を求める調停を家庭裁判所に申し立てる必要があります。
調停で、当事者が婚姻の無効を合意し、家庭裁判所が調査をした結果、その合意が正当と認めるときは、合意にしたがった審判がなされます。
 調停不成立や、審判告知後2週間以内に異議申立てがあるときは、裁判で決着をつけることになります。
 
 A婚姻障害事由に該当しないこと
 婚姻障害事由に該当する場合は、婚姻の届出は受理されません。
 
 婚姻障害事由
 1.婚姻適齢に達していない(男18歳以上、女16歳以上。)

 2.重婚であること(配偶者(夫または妻のこと)のある者は重ねて婚姻できない)

 3.再婚禁止期間であること(女性は、前婚の解消の時から百日6ヶ月を経過しなければ再婚できない。)
 ⇒この規定は、子供の父親の推定規定の衝突を防止するものであるため、高齢であるや、子供の父親に争いがない場合などは、この規定は適用されません。

 4.配偶者となる者が、一定の近親者であること(近親婚の禁止)
 ⇒直系血族または三親等内の傍系血族。直系姻族間。養子、その配偶者、直系卑属またはその配偶者と、養親またはその直系血族間は婚姻できません。
養子の場合は、養子が解消された後も同様で、養子関係の間柄であった人たちは婚姻できません。

 5.未成年者の婚姻については、父母の同意があること(一方の同意で足りる。)

上記の1〜4の障害事由に該当していながら、万が一、届出が受理された場合は、取消し原因になり、一定の範囲の者から取消しを請求できます。
ただし、「1」で適齢に達した後(なお、その後追認がなければ、3ヶ月間は取り消しの請求ができる)、「3」で前婚の解消から6ヶ月経過また、再婚後に懐胎したとき、また、その婚姻が詐欺、強迫でなされたものであるのなら、詐欺を発見し、強迫を免れたときから3ヶ月を経過した後、は取消権は消滅します。

婚姻取消しの効果
 取消しの効果は遡及しません(民法748条1項)。ということで、取消原因が善意(知らなかった)人は、婚姻によって財産を得たときは、現に利益を受ける限度で返還する必要があり、取消原因が悪意(知っていた)人は、婚姻によって得た利益の全部を返還し、さらに相手側が善意(取消原因があることを知らなかった)の場合には、損害賠償をしなくてはいけません。
 
 B形式的な婚姻の届出
 婚姻の届出がない場合は、そもそも法律上の婚姻関係は発生しません。
ただ、婚姻の届出がない場合に、婚姻意思があり、実質上、夫婦共同生活を行っている場合は、「内縁」の問題になります。


 ○婚姻の効果

 T 夫婦の氏
   夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫または妻の氏を称します(民法750条)。

 U 同居・協力・扶助義務
   夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければなりません(民法752条)。

 *同居義務
 同居義務があるといっても、正当な理由のある別居状態(単身赴任や一方の配偶者による暴力から逃れるため、など)や、夫婦の円満のために一時的に別居するのは許されます
 ただし、別居するのに理由がないときや、長期間の別居は、離婚原因の悪意の遺棄や婚姻を継続しがたい重大な事由になることもあります。
 また、これに関連することで、正当性のない別居をした方からの、「婚姻費用分担請求」は減額対象(または認められない?)になります。
 ⇒ただし、子の養育費に関しては、夫婦の責任の所在に関わらず、認めている。

 *協力義務
 夫婦は、生活共同体を維持するに必要な全生活面で協力し合う義務があります。この協力義務が、直接争われることはほとんどないと考えれれていますが、離婚原因の判断材料にはなります(例えば、宗教活動で家庭を顧みない等)。

 *扶助義務
 自己の生活に余裕のある程度ですれば足りる親族間の扶養義務とは異なり、夫婦の間ではお互いに同一水準を維持しうる生活費を負担する関係、生活保持義務があります。
 判例通説では、この扶助義務の具体的請求の根拠が婚姻費用分担請求義務であるということです。

 V 成年擬制 
  未成年者が婚姻したときは、成年に達したものとみなされます(民法753条)
 
 W 夫婦の契約取消権
  夫婦で契約したときは、婚姻中、いつでも、夫婦の一方から取り消すことができます。(民法754条 ただし、第三者の権利を害することはできない)
しかし、夫婦関係が破綻に瀕しているときは取り消すことができない、とされています(判例上)。
 ただし、夫婦関係が破綻していて、夫婦の契約取消権が認められないときでも、口約束だけの贈与は、いつでも撤回できます(民法550条)ので、注意してください。

 X その他
  その他、夫婦には各相続権があります。
 また、妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定されます(民法772条)。


 ○夫婦の財産

 T 財産の帰属
 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産(相続財産など)は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産)になります(民法762条1項)。
 夫婦のいずれかに属するか明らかでない財産は、共有に属すると推定されます(同条2項)。

 婚姻前から持っている財産や、親の相続で得た財産が夫婦の一方の特有財産であることには、さほど問題ありませんが、夫婦生活上で得た財産―例えば、夫の給料―に対して、もう一方の配偶者(妻)の貢献維持が認められる場合には、どう判断されるのかが問題となってきます。
 そこで、一つの判例を見ますと、
妻の持分は財産分与、扶養の各請求権、相続に際して実現されるべきで、こうした手続以外は夫名義の所得の一部を妻の所得として評価できない」という過去の判例があります。この考えでは、妻の内助の功としての夫の給料に対する妻の持分を認めても、その持分は―財産分与等のときには判断されるますが―通常は、夫婦間の潜在的なものにすぎないと考えられます。
ただ、別の判例で「夫婦の一方が他方の協力のもとに稼動して得た収入で所得した財産は、実質的には夫婦の共有財産であり、婚姻関係が悪化し、一方が別居を決意し家を出る際、夫婦の実質的共有に属する財産の一部を持ち出しても、その財産が将来の財産分与として考えられる対象・範囲を著しく逸脱するとか、他方を困惑させるなど不当な目的をもって持ち出したなどの特段の事情がない限り、不法行為とはならない(つまり、認めている)」というのもあります。

どちらにしても、夫婦が協力し合って得た財産(実質的共有財産)は、財産分与の対象となります。

他に特有財産に関する判例で「夫婦間の同意で、夫が買い受けた不動産を登記簿上、妻の所有名義としただけでは、その不動産が妻の特有財産となるものではない」というのがあります。これに関し、夫婦の合意により妻の特有財産とすることも可能ですが、その場合は、贈与税の問題が出てくるでしょう。


 U 婚姻費用分担義務
 夫婦は、その資産、収入その他一切に事情を考慮して、婚姻から生じる費用を分担します(民法760条)。

婚姻費用とは、衣食住の費用、医療費、子供の教育費、相応の娯楽費、葬祭費、交際費等、未成熟な子を含む生活共同体に必要な費用(生活費)のことです。

夫婦が共働きの場合、どちらがどの程度、婚姻費用を出すということは、夫婦の資力を考慮して、夫婦間の協議で決定し、話し合いがつかない時は、家庭裁判所での調停、審判で決められることになります。


$$さて、ここで一番重要と思われるのが、別居中の一方からの婚姻費用(生活費)の請求です(もちろん、別居中でなくても生活費の請求が問題となることはありますが)。
互いに生活保持義務があるため、一方から他方にへと「婚姻費用分担請求権」があります。
婚姻費用の計算方法は家庭裁判所の実務では独自に作成された「算定表」が用いられています。(「算定表」以前は総合消費単位方式、生活保護基準方式、標準家計方式などが用いられていました。現在でも判断材料にすることはできます。)⇒「算定表:参照(裁判所HPより)」
*この「算定表」は通常生じるであろう事態に応じられるよう作られているため、一般的な費用だけでなく各家庭事情の特別費もある程度考慮されています。

(当事務所でも、夫、妻の年収からおよその婚姻費用を算出させてもらいます。)
  こちらメールから ⇒     
 
例えば、夫の年収500万、妻の年収100万のとき夫から妻に対しての月額の婚姻費用はおよそ6〜8万円になります。

*当事者で合意できれば、金額については幾らでも構いません(算定表通りの金額にする必要はない)。ただ、調停等に持ち込むと算定表の金額が目安になりますことを意識しておく必要があります。どの金額でも合意ができれば、その合意書を作成(場合により公正証書で作成)しておくのもいいかもしれません。

*婚姻費用分担請求がいつからの分からできるかについては、判例でも分かれていて、「義務者において請求者が分担の支払いを受けなければならない状況にあることを知り、または知ることができる時から」や「請求した時から」というのがあります。
終期は、離婚成立または同居までとされています。


 V 日常家事債務の連帯責任
 夫婦の一方が負う日常家事債務について、あらかじめ責に任じないことを予告した場合を除いて、もう一方の夫婦も連帯責任を負います
ここで、「日常家事債務」は、衣食費、医療費、教育費、交際費などの家庭生活を営むために日常的に必要な費用やそのための借金のことで、それが日常家事債務に入るかどうかは、その夫婦の生活規模や地域の慣習などを客観的に観察して判断するとされています。
電気料金や家賃の支払いや、通常程度の金額の電子レンジの購入などは「日常家事債務」に入りますが、ダイヤの購入費用や夫の事業の資金の借入などは日常家事債務に当たらないとされています。また不動産を他方が処分する行為も日常家事に含まれません。
ただ、破綻して実質上夫婦関係が消滅している場合は、日常家事に関する連帯債務は負わないと考えられています。
なお、この既に発生している連帯責任は離婚しても責任を免れるわけではないことに注意が必要です。


 W 夫婦の財産契約
  上記T〜Vの法定財産制と異なる取り決めをすることも可能です(その契約の内容によっては、公序良俗違反で無効になることもありますが)。例えば、法律上、財産の帰属については夫婦別産制(一方の名義で取得した財産はその者の特有財産になる)ですが、夫婦生活上の財産は(すべて)共有にしたいということで、「(相続で取得したものは除き、)婚姻中取得した財産は、夫婦の共有財産とする」と契約することも可能です。
 ただし、夫婦財産契約は、婚姻の届出前にしなければならず(民755条)、第三者に対抗するには、婚姻の届出前に「夫婦財産契約に関する登記」をしなければなりません(民756条)。また、原則、婚姻の届出後は、契約の変更することはできなくなっています(民758条1項)


 X その他夫婦の財産問題として
 Q 夫の突然の蒸発後、妻は夫の財産を処分できますか?

 A 夫の財産はあくまで夫の財産。共有が考えられても、夫の権利があります。なので勝手に処分できませんので、家庭裁判所で不在者財産管理人を選任してもらい対処する方法が良いでしょう。


 


 参考: 何かあれば、夫婦の間で話し合うのがまず第一ですが、夫婦間で話し合いがつかない、話し合いができないときは、家庭裁判所の調停制度を利用しましょう。
夫婦の円満解決の調停、夫婦の同居や婚姻費用の分担などの調停も可能です。

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