□後見・保佐・補助制度

 精神上の障害によって1人では生活していくのに困難な人を補佐する制度として、後見等の制度があります。
認知症などで意思をはっきり持つことが出来ない人の財産などを守るために大切な制度です。

 項目
  ・後見等の基礎   ・手続(申立)   ・後見人の事務   ・その他


後見等の基礎

○後見等の必要性(民法一般原則から)

 ・意思能力=「自己の行為の動機と結果を一応認識し、この認識に基づいて正常な意思決定をすることの出来る能力」のことで、有効な法律行為を行うための一定の判断能力が有り、その判断を行う精神状態があることが必要になってきます。民法の明文上の規定はありませんが、この意思能力の欠ける人がした法律行為は無効になります。
 意思能力がなくてその法律行為が無効になるとしても、その行為時に意思能力がなかったことを証明する必要が出てきます。既に認知症などの医師の診断があり、回復する見込みがない状態なら意思能力のないことの証明もまだしやすいでしょうが、例えば自分の家で表向き通常に暮らしているような状況なら当事者が意思能力のないことの判断できないこともあります。もしその本人が理解せず契約を結んで無効にしたくても、その契約時に意思能力がないことを証明しなければならず、なかなか大変です。


 ・行為能力=「意思能力を持って、単独で有効な法律行為ができる能力」のことです。この行為能力がない人が行った法律行為は原則取り消せるものとして、行為能力なき人を保護します。この行為能力は法で制限能力者として定型化しており、意思能力の有無と違い証明も易しく行えます。
 その制限能力者が、未成年も含めた被後見人などです。
 
 制限能力者のできる法律行為また後見人等を置くことにより制限能力者の保護を法律上定めています。
 年齢で判断できる未成年以外は、家庭裁判所での審判を受けて初めて制限能力者として証明が可能です。


 後見・保佐・補助の基本的な内容について、表にまとめておきます。

後見 保佐 補助
要件・手続きなど
(家庭裁判所への審判)
対象者 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者
請求権者 本人、配偶者、4親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人、検察官。
他市町村長にも申立権が認められている。
本人、配偶者、4親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人、検察官。
他市町村長にも申立権が認められている。
本人、配偶者、4親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、検察官。
他市町村長にも申立権が認められている。
鑑定の可否 原則必要 原則必要 原則不要
医師の診断書等は必要です。
同意権・取消権 付与の範囲 日常生活に関する行為以外の行為(同意権なし) 民法13条1項所定の行為(日常生活に関する行為は除く) 申し立ての範囲内の特定の法律行為
付与の審判 不要 不要 必要
本人の同意 不要 不要 必要
取消権者 本人、後見人 本人、保佐人 本人、補助人
代理権 付与の範囲 すべての財産的法律行為(一部許可等が必要な場合がある) 申し立ての範囲内の特定の法律行為 申し立ての範囲内の特定の法律行為
付与の審判 不要 必要 必要
本人の同意 不要 必要 必要

*同意権=原則、制限能力者が法律行為をするには、同意権者の同意が必要です。この同意を得ないでした行為は取り消すことができます。同意権のない成年後見の場合、成年被後見人の財産行為(日常生活に関するもの除く)はつねに取り消すことができることになります。

*代理権=制限能力者の代理人となる権原。保佐や補助の場合は、特定の法律行為について家庭裁判所の審判での付与が必要になってきます。


これ以降は、後見制度を中心にして記載していきます。

手続(申立) 

 ・申立権者が、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に後見等開始の審判の申立を行います。
⇒まず家庭裁判所に手続の相談を行うことをお勧めします。当該家庭裁判所に手続案内(手引き等)がありましたら相談時にそれを受け取ります。必要書類、手続の仕方などはその手引きに記載されていますので、それを参考にして行います。

 ・申立の基礎的な説明
 成年後見の開始の必要性が問われてきますので、まず、
 A本人が成年後見人を必要とするのか、が問われます。
 ⇒定型の申立書に申立の実情の記載そして医師の診断書が必要になってきます。すでに被後見人になっていたりしたら申立の意味がないので、後見登記がされていないことの証明書が添付書類として必要です。

 B本人、申立人などの一般資料
 ⇒申立権者であることを示す戸籍謄本や住民票が必要になってきます。戸籍謄本等は本人、申立人、後見人候補者分が必要になってきます(申立人=候補者など、共通で使える場合は別途用意する必要はありません)。
 なお、成年後見人等は家庭裁判所の職権で決まるため、(申立書記載の)候補者が必ずしも成年後見人になれるわけでないことを注意しておく必要があります。

 C本人の財産状況、収支に関する資料
 ⇒本人だけでなく成年後見人になる人とって重要な事項(仕事)の一つです。財産目録や収支状況報告書(収支予定表)やその説明資料のコピーなどが添付種類として必要です。例えば、相続で成年後見人を付ける場合は遺産分割協議書案の添付が求められます。他、必要に応じて説明の書類を用意しなければならない事があります。

 ☆申立て費用等=各申立て先家庭裁判所で確認して欲しいですが、後見等開始の申立て費用(収入印紙〜登記に必要な手数料、切手…)はおよそ1万円ほどです。他、医者の診断書を得るための手数料や(鑑定が必要な場合の)鑑定料(10万前後?鑑定に当たる医師によって違ってきます)が掛かってきます。なお、下記任意後見契約の費用(公証人費用)は、2万円ほどを見ておいたほうがいいでしょう(ただし、一緒に財産管理契約等する場合はもちろんそれより多くなります)。




後見人の事務

 法853条 後見人は遅滞なく財産の調査に着手し、1ヶ月以内に(家庭裁判所において伸長できる)その調査を終わり、その財産目録を作成しなければならない。後見監督人がある場合は、その立会いを以ってしなければその効力を生じない。

 法861条@ 後見人は、その就職の初めにおいて、被後見人の生活、教育又は療養監護及び財産管理のために毎月支出すべき金額を予定しなければならない。

⇒申立時に用いた本人の財産状況、収支に関する資料が利用できます。監督人がいる場合は、財産の調査・目録の作成は監督人の立会いをもってしなければならないことに注意が必要です。


 法855条 後見人が被後見人に対し債権を有し、債務を負う場合において、後見監督人があるときは、財産の調査に着手するまでにこれを後見監督人に申し出なければならない。後見人が被後見人に債権を有することを知ってこれを申し出ないときは、その債権を失う。
⇒申立手続費用は原則申立人の負担と考えられています。特別な事情がある場合に本人などに負担させることができると解されています(家庭裁判所へ上申)。


 法856条 後見人が就職した後、被後見人が包括財産を取得した場合について、853条〜855条が準用されます。
⇒被後見人が相続財産を取得した時は、この条文によって、改めて財産の調査→目録の作成をしなければなりません。


>>>>
 法858条、859条 成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮の義務が後見人にあります。後見人は、被後見人の財産を管理し、その財産に関する法律行為について後見人を代表します(代理人となります)。
⇒後見人の基本的な役割です。後見人は善管注意義務が課せられますので、通常以上に責任を以って事務等を行わなければなりません。
*成年後見制度は成年被後見人のためにあるものです。例え家族の財産であっても…例えそれが親、夫妻、子供の財産であっても後見人は他人の財産のつもりで慎重に扱わなければなりません。
 年間等の一定期間内における財産目録や収支状況報告書の作成、提出が求められます。

 法861条A 後見人が後見の事務を行うために必要な費用は、被後見人の財産から支弁する。
⇒一般的に領収書が必要、電車賃など領収書がないような場合は詳しく記載した支出一覧表などが必要になってきます。

 法862条 家庭裁判所は、後見人及び被後見人の資力その他の事情によって、被後見人の財産の中から相当な報酬を後見人に与えることができる。
⇒職業専門家が後見人等になる場合に特に関わってきます。後見人が家族等でも報酬付与の申立は可能です(認められるかどうかは家庭裁判所の判断次第ですが)。


 法860条 後見人と被後見人との利益が相談する行為については、家庭裁判所に特別代理人の選任を請求しなければなりません。
⇒例えば、後見人と被後見人が同じ相続人となる場合は、被後見人のために特別代理人の選任が必要です。この特別代理人の選任申立時に遺産分割協議書案の添付が必要になってきます。この場合、後見監督人がいる場合は、監督人が被後見人の代理人になります。


 法860条の二、三  被後見人の郵便物についての取り扱いについて。家庭裁判所に認めてもらうことで、成年被後見人の郵便物を後見人宛てに配達させることができます(6ヶ月を超えることができない期間有り)。また、成年後見人は、成年被後見人宛ての郵便物を受け取ったときは、開いてみることができるということも、条文化されました。


>>>>
 法870条、871条 後見の終了 後見人の任務が終了したときは、後見人又はその相続人は二ヶ月以内に(家庭裁判所において伸長できる)その管理の計算をしなければなれない。監督人があるときは、その立会いをもってしなければならない。

 法873条の2 被後見人の死亡後の権限も法定されました。相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるまで、次の行為ができます。
 @特定の財産の保存に必要な行為。
 A弁済期が到来している債務の弁済。
 B火葬又は埋葬に関する契約の締結その他(@A除く)相続財産の保存に必要な行為。(←Bは家庭裁判所の許可が必要)


その他

任意後見制度 ⇒本人の意思の尊重(公正証書によって契約。)

(任意後見契約に関する法律法2条1項参照)
委任者(本人)が、受任者(任意後見受任者)に対し、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養監護及び財産の管理に関する事務の全部または一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約であって、任意後見監督人が選任された時からその効力が生じる、ものであります。

 将来のことを見越して、しっかりしている間に、任意後見の契約を結ぶことで、意思がはっきり持てなくなった時の財産などに関しての心配事を解消してくれる制度です。


(⇒)意思表示がしっかりできる間に、後々のことを考えて、事前に準備をしておくものです。一人暮らしなど不安のある環境に対処するための、財産保護の観点から非常に意味のある制度だと思います。自分の財産は、自分でしっかり管理できればいいのですが、年による思考力の低下などによって、社会の複雑な変化に対応できず、知らぬ間に財産を消失することもありえます。また、肉体の老化などによって、介護等が必要になっても、自分自身で介護手続きに行くことができないことも考えられます。

 この任意後見制度は、委託者(本人)が、事理を弁識する能力が不十分なときに、受託者(任意後見人)等が、手続きを行い、任意後見監督人の選任によって、その事務が始まります。その後は、事前に取り決めた契約に基づいて、任意後見人が、財産の管理、介護手続などを本人に代わって行います。その任意後見人の事務を、家庭裁判所により選任された任意後見監督人が、きっちり監督することになります。任意後見人に不正な行為があった場合は、監督人等からの請求により解任させられます。本人が信頼できる人を任意後見人として、本人が契約関係の相手側として選ぶことになるので、本人の意思を尊重したものになります。当然、契約後、信頼関係が損なわれて任意後見人として任すことができないということもありましょうが、そのときでも、法律の定めにそっていつでも解除することが可能です。

 なお、任意後見契約は、公正証書によってすることが定められています。契約時においても、公証人が入って行うので、信頼度が高まります。本人の意思能力欠如による後見制度はともかく、任意後見制度また個別の財産管理契約は、本人と受任者との間の信頼関係が非常に重要になると思います。財産を預ける……本人が真に任せていいと思われる人を選んでください。自分で契約の相手側を、財産の管理を任せられる人を選んで、事後を委託することに任意後見の意義があると思います。


トップへ                               (←メールはこちらから)