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法律連載  第三弾     民法に入る

  今回からは民法です。
 民法とは、原則、私人間における法律で、市民間の財産関係や身分関係は基本的に民法が適用されます。
 私たちの一般生活になじみの深い法律で、時効や代理とか言う言葉はよく使われていますし、普段何気なくしている買い物も民法にその法律上の根拠があります(民法第3編債権の中の売買がそれ)。
民法は条文数1000条を超え、奥も深いものですが、生活になじみが深く、よくよく見ていくと結構面白いものです。
 かなりの回数になると思いますが、今回からは「法律学の王者」と言われている民法を見ていこうと思います。


目次  第1回目   私法とは?民法の基本原則とは?
     第2回目   幾つかの・・・・・能力
     第3回目   制限能力者とは?
     第4回目   住所と失踪・・・・・・一部前の続き
     第5回目   法人って何?
     第6回目   法人の能力等

     第7回目   物(mono,butu)
     第8回目   法律行為???
     第9回目   意思表示の謎
     第10回目  代理です。
     第11回目  無責任な代理人!?
     第12回目  無効と取り消し
     第13回目  条件付、期限付き、期間の考え
     第14回目  時 効


第1回目   私法とは?民法の基本原則とは?

 民法がどういうものかということ知るために、まず私法とはなにか?を見ておこうと思います。
 簡単に言いますと、私法とは「私人間の法律関係を規律する法の総称のこと」であり、「国(または公共団体)と私人との間の法律関係」である公法と相対するものです。
公法には・・・国家の組織作用に関する、また国と私たちの間の関係の法律のことですが・・・次のようなものがあります。
私たちは国に対して税金を払っています。所得税法や、法人税法、地方税法などの税法は公法です。
犯罪を犯した者を国が取り締まります。刑法も公法の一つです。
そして、最高法規(一番偉い法律のこと)である憲法も公法であります。
反対に私法には、これから見ていく民法や、商人・会社に関する法律である商法などがあります。
私人間に関する法律のことを私法と言います。


次に民法の基本原則を見ておこうと思います。
まず、明治の時日本で民法を制定するにあたって、指針とされた三原則があります。
近代民法の指導原則と呼ばれているもので、

第1に、所有権絶対の法則。
 物を全面的に支配できる権利のことを所有権と言いますが、その所有権は国家権力でも侵害できない絶対的なものであるという原則です。

第2に、契約自由の原則。
 契約の内容などは当事者の間で自由に決めることが出来るという原則です。

第3に、過失責任の原則。
 相手に損害を与えても、損害を与えた本人に故意又は過失がなければ損害賠償責任を負わないという原則です。

しかし、この三原則は、色々と問題があり、例えば、二つ目の「契約自由の原則」は契約は自由ということで、弱者が強者のいうとおりの契約をさせられてしまします。強者の言うことを聞かないと、弱者は契約ができないということになってしまいます。このように、この三原則間では経済的弱者を多く生み出し、その人たちにかなりの損害を与えてしまうことになってしまいました(私経済的活動を活発に行ったという良い面もありますが)。そのために、現代の民法ではこの三原則の修正がなされています。
現代民法の指導原則と呼ばれているもので、

第1に、公共の福祉の原則。
 民法により保護される権利は、社会全体の利益(公共の福祉)と調和する間において、その効力が認められるという原則。

第2に、信義誠実の原則。
 私権の行使や義務の履行は、当事者間の信頼を裏切ることなく、誠実に行動しなくてはならないという原則です。

第3に、権利濫用禁止の原則。
 権利の行使も、著しく公共の利益に反したり、信義誠実の原則に反して他人に損害を与えるときは、権利の行使として認められないと言う原則です。

これによって近代民法の三原則がなくなったわけではありません。近代民法の三原則は現代民法の三原則に違反しない間でそのまま使われています。
 所有権絶対の法則は、法令の制限内において所有権は全面的に守られることになっていますし、契約自由の原則も、信義誠実違反や権利の濫用にならなければ、原則契約は自由に行っていいですし、過失責任の原則も、ある一定の場合においては無過失責任とされていますが、基本的に賠償責任は故意・過失が要件になっています。

近代民法の原則、現代民法の原則の全部で6原則は民法を理解するうえで、とても大切だと思います。

 (*2003年6月11日)
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第2回目        幾つかの・・・・・能力

 民法の基礎的概念として次の四つの「・・・能力」という言葉は大切です。
 ・権利能力
 ・意思能力
 ・行為能力
 ・責任能力
 以上、一つずつ見ていこうと思います。

  まず、権利能力。
 権利能力とは、「権利の主体となることのできる法律上の地位又は資格」のことで、簡潔に言うと権利能力のあるものは、法律上の権利を持つことが出来るということです。
 この、権利能力は、民法1条の3で「私権の享有は出生に始まる」とあり、人は出生(生まれること)により、権利の主体となることが出来るのです。
 権利能力を持つのは、人と法人です。人は上記にも言いましたが、出生により権利能力を取得します。法人は設立によって取得することになります。
胎児は、どうなのかという問題もあります。胎児は基本的に生まれる前は権利能力はありませんが、@損害賠償請求 A相続 B遺贈 に関しては生まれたものとみなし、権利能力が認められています。ただし、生きて生まれてこないとダメです。
ちなみに、人は死亡することにより権利能力は消滅します。
 権利能力がないと、権利の主体になることが出来ません。
例えば、贈与ですが、ある子供に10万円をあげる、という話のときその子供は10万円をもらうことができます。なぜなら、その子供は贈与契約上の権利の主体になれるからです。子供には権利能力があります。
話を変えて、ある犬に10万をあげる、という場合はどうでしょうか?犬には権利能力がありません!つまり、犬は権利の主体となることが出来ないのです。ですから、犬に10万を上げるという話は、法律上は存在しないことになります。
 権利能力は義務能力でもあります。権利をもつものは同時に義務も負担しなくてはならないからです。
先ほどの贈与の話ですが、贈与契約が成立した以上、子供の10万円がもらえるという権利に10万円を渡すという義務も一緒に発生してきます。


  次に、意思能力。
 意思能力とは、「自己の行為の動機と結果を一応認識し、この認識に基づいて正常な意思決定をすることの出来る能力」のことで、この意思能力がない法律行為は無効です。物事を理解することが出来る能力だと思ってください。
 例えば、契約をするにしても、一方が契約の内容がわからない・・・契約を締結できる意思をもっていない、意思能力がなければ、たとえ強引にその契約が成立したとしてもその契約は無効です。生まれたての赤ちゃんと売買契約をするときなどがそれでしょう。生まれたての赤ちゃんには売買の意味もおろか、お金の概念もわかりません。そんな売買契約は無効です。痴呆症の人と契約するときもそうです。なにもわからず・・・意思能力がなく、契約が結ばれたとしても、その契約は無効です。
 この意思能力は、だいたい7歳〜10歳ぐらいの子供の精神的能力である、といわれています

  次に、行為能力。
 行為能力とは、「意思能力を持って、単独で有効な法律行為ができる能力」のことです。この行為能力がない法律行為は、原則取り消すことが出来ます。
 例えば、12歳の子と土地の売買契約をするとします。その子供は売り買いの意味がわかり、意思能力があります。しかし、土地の売買など多額の金銭が動きますし、損得を考えてその子供一人で本当に契約を結ぶことが出来るか怪しいものです。それではその子供に完全には意思能力があるといえません。つまり行為能力がない、という話です。この場合、たとえ契約が結ばれたとしても、その子供の親が契約を取り消すことができます。
 先ほど出てきました意思能力の有無はなかなか証明は難しいものです。しかし、この行為能力は法で制限能力者として定型化しており、証明も易しく行えます。


  最後に、責任能力。
 責任能力とは、「法律上の責任を理解して判断することの出来る能力」のことです。
例えば、4歳の子が隣の家の壁に落書きをしたとします。落書きは隣の人からすれば損害です。しかし、4歳の子供はその責任を理解できないでしょう。つまり、責任能力を持っていない、ということです。責任能力がなければ責任を負うことはないというわけではありません。この場合は、その子の親が責任を負わなくてはならなくなります。
 この責任能力は12,3歳ぐらいになるとあるといわれています。
 16歳の人が窓ガラスを割ったとします。16歳にもなるとその責任はわかるものです。責任能力があるとしますと、この場合、窓ガラスを割られた人はその割った本人に損害賠償を請求することになります。 

まとめますと、権利能力がなければ、権利・義務の主体になれません。意思能力がないと、その行為は無効。行為能力がないと、原則取り消しができます。責任能力のある人が責任を負います。・・・ということです。

 行為能力は、次回の制限能力者のところで、責任能力は不法行為のところで、また詳しくお話します。

  (*2003年6月16日)
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第3回目          制限能力者とは?

 行為能力に関係する制限能力者について、今回は見ていこうと思います。

行為能力とは、(完全な)意思能力を持って、単独で有効な意思表示が出来る能力のことでしたが、この行為能力があるかどうかは、その人を見ただけでは実際の所、判断できるものではありません。
例えば、同じ30歳の人でも、中には、この行為能力が欠けている場合もあるでしょう。しかし、その人と話しただけでは、本当に行為能力があるかどうかなんてわかりません。そのため、民法では能力が十分でない者を制限能力者として定型化して、その人に保護者をつけ、これらの者が単独でした契約などの行為を原則、取り消すことが出来るようにしています。
制限能力者に当てはまるのは、次の4パターンの場合です。

@未成年者
 満20歳に達しないものは未成年者とされています。(ただし、婚姻(結婚)をした者は成年に達したものとみなされます。⇒成年擬制)
 この未成年者は、原則として保護者(親権者、未成年後見人)の同意がなければ、単独で有効な法律行為ができません。
つまり、単独で土地の売買契約などをしても、原則それは後から取り消すことができるということです。
 ただし、次の行為は未成年者が単独ですることができ、これを取り消すことは出来ません。
 ○単に権利を得たり、義務を免れる行為。
 客観的に見て未成年者に得になる行為のことで、例えば、ただでパソコンを貰うことや、借金を帳消しにしてもらうことなどがこれに当たります。
未成年者が一方的に得をしていることから、親権者などの同意が必要ではないのです。
ただ、パソコンを貰うにしても、何かの負担があるとき(ある物と交換、1000円ほど渡す、など)は、保護者の同意が必要になります。

 ○処分を許された財産の処分
 お小遣いがこれにあたります。
 お小遣いでゲームソフトを買う、といった場合のことです。この場合は、親が反対ということでも、後から取り消すことはできません。
ただし、本を買うために使ってね、のようにきちんとそのお金の使い道を指定している場合は取り消すことが可能な場合があります。
 何も言わずにお小遣いを渡している場合は、子供がそのお金で何を買っても(もちろん禁制品等は別)親は文句は言えません。

 ○営業を許された未成年者の営業に関する行為
 バイトとして食べ物を売る、といった行為がこれに当たります。
 あくまで、許された範囲だけが取り消すことの出来ない範囲に当たります。

A成年被後見人
 精神上の障害(痴呆症など)により事理を弁識する能力を欠く常況にある者で、一定の者の請求により、家庭裁判所で後見開始の審判を受けた者のことです。
 たとえ、痴呆症で全く周りのことが見えなくても、家庭裁判所で後見開始の審判を受けなければ成年被後見人には当てはまりません。
 この審判があると、家庭裁判所は成年被後見人の保護者として成年後見人を選任します。

 この場合は、日用品の購入など日常生活に関する法律行為以外は、すべて後から取り消すことが出来ます。例えば、成年被後見人が土地を買う行為があり、成年後見人の同意を得ていたとしても、取り消すことが出来ます。
なぜなら、成年後見人には同意権がないからです。ただし、代理権はあります。

B被保佐人
 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な者で、一定の者の請求により、家庭裁判所で保佐開始の審判を受けた者を言います。
 この審判の時に、被保佐人の保護者として保佐人が選任されます。

 被保佐人は、日用品の購入はもとより、通常の財産上の行為も一応、単独ですることが出来ますが、次の重要な財産行為は保佐人の同意が必要とされています。
 ・元本を領収しまたはこれを利用すること。
   預貯金の払戻しや、貸したお金の返済を受けることなどです。家賃、利息の受け取りは構いません。
 ・借財又は保障をすること。
   借金をしたり、保証人になったりすること。
 ・不動産、その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
   土地を売ったりすることです。
 ・訴訟行為をすること。
 ・贈与、和解、仲裁契約をすること。
 ・相続の承認、放棄、遺産の分割をすること。
 ・贈与、遺贈を拒絶し、又は負担つきの贈与、遺贈を受諾すること。
 ・新築、改築、増築、大修繕をすること。
 ・602条に定めた期間を超えた賃貸借をすること。
   602条には、一定の期間を超えない短期賃貸借について定められています。
   例えば、建物3年。
 ・その他家庭裁判所がとくに審判により指定した行為。
以上の行為を、保佐人の同意を得ずに被保佐人がした場合は、後から取り消すことができます。

C被補助人
 精神上の障害により事理を弁指揮する能力が不十分な者のうち、成年被後見人、被保佐人の程度に至らない軽度の状態にある者で、本人の申し立てまたは本人の承諾を得た一定の者の請求により、家庭裁判所で補助開始の審判を受けた者をいいます。
 この審判の時に、保護者として補助人が選任されます。
 
 被補助人が制限される行為は、本人の同意のもと、審判で決められます。
審判で定められた限度で被補助人は行為が制限(補助人の同意が必要になる)されますが、それ以外は普通に問題なく行えます。



 制限能力者が行った行為は、原則取り消すことが出来ますが、相手側がいる以上、相手側の保護も考えなくてはいけません。
民法上、この場合の相手側の保護が定められています。
 @相手側の催告権
相手側は、制限能力者側(本人・保護者)に対して、1ヶ月以上の期間内にその取り消しの出来る行為を追認するかどうかを解答すべき旨を催告することが出来ます。
(*取り消しが出来る行為は追認後、取り消しが出来なくなります。)
この催告に関して、解答がなかった場合は、その催告された人によって、取り消しになったり、または追認とみなされることになっています。
例えば、相手側が保護者にこの催告をして、期間が経過したが保護者が何の返事もしない場合は、追認したものとみなされ、もはや取り消すことができなくなります。逆に未成年者に催告した場合で、返答がないときは、取り消したものとみなされます。

 A制限能力者の詐術
 制限能力者が相手側を騙して、自分は能力者であるといって行った行為は、取り消すことが出来ないとされています。騙した制限能力者が悪いため、保護されないのです。
 例えば、本当は同意がないのに親の同意を得ていると嘘をついた場合などです。年齢の嘘もこれに当たります。未成年者が成年者だと嘘を言う場合です。
 制限能力者が相手側を騙す詐術を行った場合は、その行為は取り消すことは出来ません。

*ある一例
 Aさんの子供(16歳)Cさんは、親に言わずに販売業者Gから50万円の教材を買った。
 この場合、Cさんは制限能力者のため、Aさん、Cさんはこの売買の取り消しが可能です。ただ、Aさんが同意した場合は、取り消すことが出来ません。
 また、Cさんが親の同意を得たと嘘をついて、相手側がその嘘が本当だと信じるべき場合のときは、取り消すことが出来なくなり、Cさん側は50万円を払わなくてはいけなくなります。

 (*2003年6月26日)
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第4回目        住所と失踪・・・・・・一部前の続き

 前回は行為能力に関係する制限能力者について見ていきました。
制限能力者。言葉の通り、行為能力が制限されている者で、契約等の行為をするには原則、保護者の同意が必要な人のことです。
 ここでは、前回のことを踏まえてまとめたものを表にしておきます。

(注)保護者の権限として・・・・・・
*同意権・・・制限能力者が契約などの法律行為をするには、保護者の同意が必要であり、同意がなければ、原則取り消すことが出来る。保護者の制限能力者の法律行為について同意する権限。
*代理権・・・保護者が制限能力者の代理となる権限。制限能力者の財産行為などの代理人になる。(代理できる範囲は限界がある)
*取消権・・・制限能力者がした法律行為を取り消すことができる権限。
*追認権・・・取り消しが出来る行為を、有効なものとして認めることが出来る権限。追認後は取り消し不可。

意義 能力の範囲 保護者となる者 保護者の権限
未成年者 満20歳に満たない者 特定の行為だけ、単独で出来る。 親権者・未成年後見人 代理権・同意権・取消権・追認権
成年被後見人 重度の精神上の障害のため、後見開始の審判を受けた者 日用品の購入その他日常生活に関する行為のみ、単独で出来る。 成年後見人 代理権・取消権・追認権
被保佐人 中度の精神上の障害のため、保佐開始の審判を受けた者 特定の重要な財産上の行為のみ、単独で出来ない。 保佐人 (代理権)・同意権・取消権・追認権
被補助人 軽度の精神上の障害のため、本人の同意のもとに、補助開始の審判を受けた者 審判により、補助人に同意権・取消権が付与されたものは、単独で出来ない。 補助人 (代理権)・(同意権)・(取消権)・(追認権)

( )付は審判により付与された範囲だけ。

 今回の本題。民法上の住所についてみていこうと思います。
民法では、「各人の生活の本拠を以って、その住所とする」と法定されています。
生活の本拠とは、主たる生活の場のことで、人の実質的な生活の場所です。
実際そこで生活している場所が住所とされます。住民登録(住民票)が住所を認定するに良い資料です。
 いちいち、法律で住所のことなんて書かなくてもいいじゃないか。と思う人もいるかもしれませんが、住所は法律上、色々な基準として用いられており、そのため住所の概念を定めておく必要があるのです。
いろいろな基準の例として、民法484条に特定物の債務履行地は債権者の住所、883条には相続は被相続人の住所において開始する、となっています。また、裁判所の管轄で被告の住所、というのもあります。

 また、生活の本拠とまではいかないが、生活上、多少とも継続して居住する場所を居所といいます。民法に、「住所の知れない場合においては居所を以って住所とみなす」と法定されています。


 次に失踪者について。失踪者とはいわゆる行方不明者のことで、生死不明の不在者(どこにいるかもわからない)のことです。
 不在者の生死不明が長く続くと、その者の財産の問題や、家族などの身分関係について未確定となり(残された配偶者が再婚できなくなるなど)、色々と悪影響です。そのため、法律上、失踪宣告という制度を作り、7年間生死不明な者に、家庭裁判所は家族などの利害関係人の請求により、失踪宣告をすることができるとなっています(普通失踪)。
失踪宣告により、生死不明者は死亡したものとみなされ、相続の開始や、婚姻関係の解消などの効果が起きます。
ただ、権利能力のところで、ちらっと言いましたが、権利能力は死亡により消滅することになっています。だから、失踪宣告となった場合も死亡したものとみなされますから、権利能力は消滅する・・かというとそうでもありません。後から、ひょっこと現れる可能性もあり、また、どこかで生活していたら、権利能力がないなんてことになると、買い物も出来なくなります(買い物は売買という法律行為。法律行為の権利義務を持つには権利能力が必要)。よって、失踪宣告を受けたとしても、権利能力が消滅するわけではないのです。

上記の普通失踪以外に、特別失踪があります。戦争や飛行機事故、火事・地震などの災害などの特別な危難により行方不明となった者は、その危難が去った時から1年間、生死不明の場合は、家庭裁判所は家族などからの請求により失踪宣告できることにされています。
失踪期間が7年から1年に短縮されているのが特徴です。

以上の失踪宣告を取り消すには、家庭裁判所に請求をする必要があります。
例えば、後からひょっこり現れても、その人は死亡したものとされていますから、従来の法律関係(婚姻関係など)は、解消されたままです。請求し、失踪宣告を取り消すことにより、宣告による死亡の効果はなくなります。それによって、従来の法律関係は復活し、婚姻関係は解消せず、相続によって得た財産などは本人に返還しなければならないことになります。
(*失踪宣言後、他の一方が再婚していた場合は、やや複雑なことになりますが、民法32条1項但し書きを考えて、善意(生きているのを知らなかった)でした行為ー再婚は有効とされています。逆に悪意(生きていることを知っていた)の場合は、失踪宣言取消後、失踪宣言前の婚姻関係も復活することになり、重婚関係として再婚のほうが取消原因となってしまいます。後日のことを考えると、夫婦の残された方は、離婚(裁判離婚)して解消したほうが法的には安心できます。)
ただ、財産は返還するのも、現在残っている利益(現存利益)だけを返還すればよいことになっています。
また、失踪宣告により財産を得た者が、宣告を取り消されるまでに、善意(失踪者の生存を知らないこと)でした行為は、失踪宣告が取り消されても、その効力はなくならないこととされています。

  (*2003年7月3日)
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第5回目         法人って何?

 今回は法人について。
法人とは、国や会社などのことで、自然人(人間)以外で、権利や義務の主体(権利能力を持つ)となれるもののことです。
 (法律上)人と同じように見るということに法人の意味があります。
個人では、限界があります。そのため、団体をつくり、その団体で叶えたい目的を達成しようとします。会社も一人ではできないことを、たくさんの人ならできるという目的でつくられます。たくさんの人の集まり(団体)は、あたかも自然人のように社会活動を行います。そのために権利能力を持つことに大いなる意義があります。
  現代では会社の名前で取引するのが、当たり前ですが、もし、法人というのがないのなら、法律上は会社の名前で取引することはできないことになります。なぜなら、権利義務の主体となれる権利能力を持っていないということになりますから。そうしますと、会社の名前で財産を持つこともできず、色々なことに支障をもたらします。
取引をするにも、法人格がないとすると団体では取引できず、個人の名で取引するしかありません。そうなると、その個人一人が取引の責任を負うことになります。
よって、法律上、人と同じように見る『法人』というのがあるのです。


**法律改正等により、一般(公益)社団法人・一般(公益)財団法人に関する法律に、移行されます。設立、運営など民法で削除され、当該法律にその辺りが規定されています。)なので、以下は、従前の話。

人は出生により権利能力を持ちますが、法人は法律と手続きにより設立することで権利能力を持ちます。この法人にはいろいろな種類があります。
@まず、何が集まって法人をつくっているかで分類できます。
法人は、一定の組織を有する人の集団である『社団法人』と、一定の目的のために寄附された財産の集合である『財団法人』に分けられます。
A次に、つくられた目的によって、法人は分類できます。
公益を目的とした『公益法人』。会社のように営利を目的とした『営利法人』。公益のためでも、営利のためでもない労働組合や同好会などの『中間法人』があります。また、市町村や都道府県などの『公法人』もあります。
このうち、民法の規定する法人は「祭祀、学術、宗教、慈善、技芸など、公益を目的とした『公益法人』」に関するものであります。
その他、会社や労働団体などは別の法律で規定されていることになっています。
民法の規定する公益法人とは、日本医師会・日本相撲協会のような団体・財団が対象になると思います。
民法では上記の公益法人の設立や組織などについて法定されています。
設立に関しては手続的なものなので、簡単に見ておこうと思います。

□@公益社団法人の設立
例えば、数十人の人が集まって学術研究を目的とする社団法人を設立するには、次の三つの要件が必要とされています。

(1)公益事業を目的としていること
祭祀・学術・宗教・慈善・技芸その他公益に関する事業を目的とし、かつ営利を目的としないこと。
(2)定款の作成
定款とはその法人の根本規則のことです。
民法の公益社団法人の定款には、「目的・名称・事務所の所在地・資産に関する規定・理事の任命に関する規定・社員の資格の得喪に関する規定」を必ず記載する必要があります。
(3)主務官庁の許可
主務官庁とは、認可や許可を決定する権限をもつ行政官庁のことで、例えば学術・技芸に関しては文部科学大臣というようなことです。
主務官庁の許可を得た時が、社団(社団法人)の権利能力の発生の時です。この許可は行政官庁の自由裁量によります(許可主義)。

□A公益財団法人
例えば、ある人が将来の有能な人材を育成するために資産を寄附して財団法人育成会を設立するには、次の三つの要件を必要とされています。

(1)公益事業を目的とすること
社団法人と同じです。
(2)寄附行為を作成すること
財団(財団法人)の根本規則のことを寄附行為と呼んでいます。社団での定款のことです。
この寄附行為には「目的・名称・事務所の所在地・資産に関する規定・理事の任命に関する規定」を必ず記載する必要があります。社団の定款には必要な社員の資格の得喪に関する規定は、財団には社員がないことから必要ありません。
(3)主務官庁の許可
社団のところと同じです。

以上が民法に規定する公益法人の設立です。設立後、一般に公示するために登記をしなくてはいけないことになっています。

**法律改正等により、一般(公益)社団法人・一般(公益)財団法人に関する法律に、移行されます。設立、運営など民法で削除され、当該法律にその辺りが規定されています。

 (*2003年7月11日)
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第6回目          法人の能力等

 人と同じく、法律上、権利能力を持つことが出来る団体のことを法人と言いますが、この法人の権利能力は全く人と同じというわけではありません。
 例えば、人は精神・肉体を持っていますが、法人にはそれらはありません。したがって、性、年齢、親族関係等の権利・義務を享有することはできないことになります。法人には、戸籍がないのが良い例です。
以上の例を考えても、法人の権利能力には限界があります。法人の権利能力はいかほどのものか?をこれから見ていこうと思います。

**
 改正された民法34条に法人の能力についての規定があります。「法人は、法令の規定に従い、定款その他基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う」。考え方自体は、下記、従前のものと同じようなものです。⇒法人の権利能力の範囲を簡単にまとめますと、「法人の権利能力は、性質、法令、定款等の目的による制限を受ける」ということになります。
*** 従前
 民法43条で法人の権利能力の範囲が定められています。
「法人は法令の規定に従い、定款又は寄附行為により定められたる目的の範囲内において権利を有し、義務を負う」と43条はこうなっています。
 法人は法律上、設立され権利能力が与えられますから、法律(法令)上の制限が法人の権利能力にあることはわかると思います。例えば、「会社は他の会社の無限責任社員になることはできない」というようなものです(*新会社法関連ではこの規定は削除されています)。
法令上の制限以外に、民法43条にあるように、法人は定款・寄附行為に定めた目的による制限を受けます。(ただ、この43条には色々な学説があり、この43条が権利能力の範囲を確定するとは一概には言えない)
ただ、目的による制限といっても、目的に書かれてあることしか出来ないというのでなく、目的を遂行するのに必要な範囲も法人は行うことが出来るという、考え方もあります。
法人の権利能力の範囲を簡単にまとめますと、「法人の権利能力は、性質、法令、定款・寄附行為の目的による制限を受ける」ということになります。
*** ↑


**法律改正等により、一般(公益)社団法人・一般(公益)財団法人に関する法律に、移行されます。設立、運営など民法で削除され、当該法律にその辺りが規定されています。)なので、以下は、従前の話。

 次に、法人と取引をすると言っても、法人それ自体と話し合うわけではありません。法人の組織であると取引等の話し合いをするのです。
 つまり、法人の法律行為の実現(法人の行為)は人―民法法人においては理事が法人の行為を現実に担当することになります。
例えば、法人が土地を買うにしても、その法人の理事が法人のために土地を買うという法律行為をすることになります。
 ただ、法人の理事の名前ですれば、その理事の行為のすべてが法人の行為とされれば、法人にとってはひどい被害を受けることにもなりかねません。
よって、理事が行える、いわゆる法人の行為能力の範囲も、権利能力の範囲と同様に制限されています。この行為能力も法令、目的の範囲内で制限されます。
 また、この理事の行為によって相手側が損害を受ける場合もあります。そのことに関して、民法で法人の不法行為能力として民法44条に定めれれています。
民法44条は次のとおりです。
「1項 法人は理事その他代理人がその職務を行うにつき、他人に加えたる損害を賠償する責に任す。
 2項 法人の目的の範囲内にあらざる行為により他人に損害を加えたるときは、その事項の議決を賛成した社員、理事及びこれを履行したる理事その他代理人が連帯してその賠償の責に任す」
以上から、法人が不法行為を追う要件は @法人の代表機関(理事等)が、職務を行うために他人に損害を加えたこと。 A法人の目的の範囲内の行為によって、他人に損害を加えること。
であります。
Aにも関することですが、法人の目的外の行為による損害は、44条2項にあるようにその事項に関係した社員や理事が連帯責任を負うことになります。
 
 以上の例として
「法人Aの理事Bが、Cから商品を買った。」として・・・幾つかの場合に分けて考えていこうと思います。
@理事Bは法人Aのために、職務でCから商品を買うとして、Bの行為によりCが損害を負ったとしますと、民法44条1項により法人Aがその責任を負うことになります。
ABは法人Aのためでなく、B単独でCから商品を買う契約をし、Cに損害を与えたとします。この場合、B単独で契約をしたのですからBがその責任を負うのは当然なのですが、Cが法人Aの理事Bによる職務上の行為であることを信じ、それに関し過失がない場合のときは場合によりAが責任を負う場合があります。
また、このBの行為が法人Aの目的外の行為の場合は44条2項によりBがその責任を負います。
*民法44条1項の職務上の行為の範囲の判断ですが、客観的に見て、外形上の目的の範囲内の行為と認められる場合や、それ自体としては本来職務行為には属さないが、職務行為と相当な牽連関係(結びつきのある)にたつ行為がその範囲とされると考えられています。
外観上、職務の範囲と思われる場合が、民法44条1項の職務の範囲とされているのです。(=外形理論)


 法人には権利能力がありますが、人間のような肉体や生命はありません。契約などの法律行為をするには、考える「頭」と行動する「体」が必要です。そこで、民法の法人では理事・監事・社員総会などの「法人の機関」というものが置かれています。

理事)―必ず置かなければならない必須機関であり、外部に対しては法人を代表し、内部にあっては法人の業務を執行することになっています。必ず一人以上理事を置くことが必要です。
理事の任命方法は定款・寄附行為で定められており、その任命は登記をしなければ第三者に対抗できません(←対抗できないと言うことは、たとえある人が理事であっても、第三者である相手側にそのことを主張できない)。
理事の職務権限は、対外的な代表権と対内的な業務執行権に分かれ、この理事の代表権は法人の一切の事務に及ぶことを原則としています。この代表権は理事が数人いる場合でも、原則として各自代表権を有することになります。ただし、この理事の代表権は定款や寄附行為等で制限することができますが、この制限は善意(知らないこと)の第三者には対抗できません。例えば、理事の代表権は理事Dにだけあると定款に定めてあるとしても、そのことを知らない第三者が理事Cと取引をした場合は、たとえ理事Cに代表権がなくても、理事Cの行為は法人の行為とされます。

監事)―置いても置かなくてもいい任意機関で、その職務は法人の財産状況および業務執行機関である理事の監査などです。

社員総会)―社団法人における最高意思決定機関で総社員で組織される必須機関であります。株式会社の株主総会がこれにあたります。
社員はそれぞれ原則として平等の議決権を持ち、定款変更や任意解散は社員総会の専決事項です(ちなみに定款の変更は原則として総社員の4分の3以上とされている)。
理事もこの社員総会で決められた事務の範囲内で職務を行う必要があります。
ちなみに、ここでいう社員とは株式会社における株主のことで、普通の従業員等のことではありません。
この社員総会は社団法人特有のもので、財団法人にはありません。


最後に、人は死亡によって、権利能力が消滅しますが、法人は解散(清算結了)をもって権利能力が消滅します。
この解散事由ですが、以下の通りです。
@社団、財団共通の解散事由
 ・定款又は寄附行為で定めた解散事由の発生
 ・法人の目的である事業が成功した時、または成功することが不能になった時
 ・破産
 ・主務官庁により許可が取り消された時
A社団特有の解散事由
 ・総会で解散を決議した時
 ・社員が一人もいなくなった時

法人は解散しますと、財産を整理する清算手続きに入ります。解散後の法人は清算手続きの範囲内においてのみ権利能力を有しますが、清算手続きも終わり、主務官庁に清算結了の届出をしますと、権利能力は消滅することになります(法人格の消滅)。
ちなみにですが、「社団法人」「財団法人」でないものがこれらの名称を使用したときは10万円以下の過料に処せられることとされてます。

 (*2003年7月18日)
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